「また人手が足りない…」「若手に技術をどう伝えるか…」「日報や報告書の作成が地味に負担だ…」。現場と経営の板挟みで、日々奮闘されている管理職の皆様、本当にお疲れ様です。

もし、その悩みを解決するヒントが、お使いのスマートフォン一つで見つかるとしたら、少し興味はありませんか?
先日、総務省から「日本の個人の生成AI利用率は26%で、海外に大きく後れを取っている」というニュースが発表されました。これを見て「やはりAIは難しい」「自分には縁遠い」と感じた方も多いかもしれません。
しかし、見方を変えれば「まだ多くの人が手探り状態で、始めるなら今がチャンス」ということです。この記事では、専門用語を一切使わず、「私たちの仕事で、明日からどう使えるか」という一点に絞って、AIとの付き合い方をご紹介します。
その思い込み、もったいないです! AIに関する3つの誤解
AIと聞くと、こんなイメージがありませんか?
- 【誤解①】大企業やIT企業が使う、高尚なものでしょう? → いいえ、 今や個人がスマホアプリで、しかも無料で使えます。特別な設備は何もいりません。

- 【誤解②】導入に何百万円もかかるんでしょう? → いいえ、 まずは月額0円から始められます。使いこなせる自信がついてから、必要であれば月数千円のプランを検討すれば十分です。
- 【誤解③】専門の知識を持つ若手がいないと使えないんでしょう? → いいえ、 難しいプログラムは不要です。あなたが普段、部下に指示を出すのと同じように「日本語でお願い」するだけで、AIは完璧なアシスタントになります。
【実践】AIと紐解く「なぜなぜ分析」――形骸化からの脱却
では、具体的にどう使うのか。今回は、多くの現場で形骸化しがちな「なぜなぜ分析」を例に、AIがどう役立つのかを見ていきましょう。
【実践】AIと紐解く切削加工の「寸法不良」なぜなぜ5ステップ
状況設定:
- あなた: 切削加工の現場管理者
- AI: あなたの思考パートナー
- 不具合: マシニングセンタで加工した部品の穴の径が、図面指示よりも大きくなってしまった(寸法不良)。

あなた(人間): AI、寸法不良の件で「なぜなぜ分析」の壁打ちを頼む。加工した穴の径がプラス公差を外れて大きくなってしまった。
AI: 承知いたしました。加工穴が大きくなるという現象について、考えられる原因の洗い出しから始めましょう。準備はよろしいですか?
【第1のなぜ】
あなた(人間): ああ。まず、なぜ穴の径が大きくなった? → 現場を確認したところ、『加工中に工具(ドリルまたはエンドミル)がビビっていた』形跡があった。これが直接の原因だろう。工具のビビりが発生する一般的な原因を、モレなくダブりなくリストアップしてくれ。

AI: 承知いたしました。「工具のビビり」の発生要因を、主要な4つの観点から洗い出します。
- ① 工具・ツーリング要因:
- 工具の摩耗、刃先のチッピング(欠け)
- ツールホルダの把握力不足、振れ精度が悪い
- 工具の突き出し長が長すぎる
- ② 加工条件要因:
- 回転数や送り速度が不適切(共振点に入っている)
- 切込み量が大きすぎる
- ③ ワーク・治具要因:
- ワークのクランプ(固定)が不十分
- 治具の剛性不足
- ④ 機械本体要因:
- 主軸(スピンドル)のベアリングのガタ
- 送り軸のバックラッシ
まずはこれらの観点から、今回の原因を絞り込めますか?

次にこの中から一番不具合の原因に近そうなものを選択して再度指示を行います!
【第2のなぜ】
あなた(人間): リストを元に確認したら、どうも『ツールホルダの把握力が低下している』ようだ。油圧ホルダを使っているんだが、しっかり締めたつもりでも工具が微妙に動く感じがする。 では、なぜツールホルダの把握力が低下したんだ? → 油圧ホルダの把握力が低下する原因として考えられることを、管理面・運用面の視点から教えてほしい。
AI: 「油圧ホルダの把握力低下」ですね。その原因として、以下の可能性が考えられます。
- ① メンテナンス不良:
- ホルダ内部(内壁)や工具シャンク部の清掃が不十分
- 作動油の劣化や漏れによる圧力低下
- ② 運用上の問題:
- 工具交換の手順が標準化されておらず、作業者によってやり方が違う
- 切削油や細かい切り粉が、工具のシャンクに付着したままホルダに装着している
- ③ 部品の経年劣化:
- ホルダ内部のシール材の劣化
特に②の『工具交換時の清掃』は、日々の作業の中で見過ごされがちですが、把握力に大きく影響します。
【第3のなぜ】
あなた(人間): まさに②だ。ホルダを分解してみたら、『ホルダの内壁に、微細な切り粉や油が固着していた』。これが原因で、工具をしっかり掴めていなかった。 では、なぜホルダ内部に切り粉が固着したんだ? → 当然、清掃不足が原因だが、なぜそんな基本的なことが疎かになるんだ?
AI: 「清掃不足」という行動の背景には、それを引き起こす「仕組み」や「環境」の問題が隠れていることが多いです。例えば、以下のような点はいかがでしょうか。
- ① 手順の不備:
- 工具交換時の清掃手順が、作業標準書に明記されていない。「作業者の常識」に任されている。
- ② 環境の不備:
- 清掃に必要な用具(ウエス、洗浄スプレー、エアガン等)が、機械のそばに常備されていない。
- ③ 時間・意識の問題:
- 段取り時間を短縮するようプレッシャーがあり、清掃のような「付帯作業」を省略しがち。
特に①の『作業の標準化』がされていないと、人によって品質にバラつきが出る直接的な原因となります。
【第4のなぜ】
あなた(人間): ①だ。恥ずかしながら、『工具交換時の清掃に関する、明確な作業標準書が存在しなかった』。ベテランが若手に口頭で教えるだけで、個人のスキル任せになっていた。 では、なぜそんな重要な手順が標準化されていなかったんだ?
AI: 「作業標準書がない」という状態は、単なる書類の不備ではなく、組織の文化や体質を反映している場合があります。
- ① 「暗黙知」への依存:
- 「これくらい言わなくても分かるだろう」というベテランの経験則への過信。
- ② 作成・更新の手間:
- 標準書を作成、維持管理する工数を確保できていない。
- ③ 教育体制の問題:
- OJTが中心で、体系的な教育プログラムやマニュアルが整備されていない。
- ④ 軽視の風潮:
- 加工そのものに比べて、段取りや清掃といった準備作業の重要性が、組織全体で十分に認識されていない。
【第5のなぜ(真因の特定と対策)】
あなた(人間): すべて当てはまる気がする…。つまり、真因は『品質を左右する重要な付帯作業が個人のスキルに依存しており、組織として標準化・教育する仕組みが欠如していた』ことだな。 分かった。この真因に対する、具体的で実行可能な再発防止策を提案してくれ。
AI: 承知いたしました。真因である「仕組みの欠如」に対する再発防止策を提案します。
- 【短期対策】写真付き作業手順書の作成と掲示: 工具交換時のホルダ・シャンクの清掃手順について、写真やイラストを多用したA4一枚の作業手順書を作成し、全マシニングセンタの操作盤に掲示する。清掃用具の定位置管理も同時に行う。
- 【中期対策】段取り作業の標準化と教育: 清掃だけでなく、工具の突き出し長測定や試し削りなど、段取り作業全体を標準化する。その内容を元に、新人・若手向けの定期的な実技研修会を開催する。
- 【長期対策】技能マップの導入と工程監査: 「標準作業を理解し、実践できる」といったスキル項目を盛り込んだ「技能マップ」を作成し、個々の習熟度を可視化する。また、管理者が定期的に現場を巡回し、標準作業が守られているかを確認する工程監査の仕組みを導入する。
作業者との対話を大事にして、作業者、管理職、AIの三者面談のように使用できると更に真因の特定や、絵に描いた餅で終わらない対策案が練れそうですね!
以前のおしらせ記事でも投稿しましたが、AIとも対話を重ねることが重要です。
最後に:AI活用の最大の壁「セキュリティへの不安」を乗り越えるには
ここまで読んで、「便利そうだとは思うが、会社の情報を入力するのはやはり怖い」と感じられたのではないでしょうか。そのご懸念は、まったくもって正しいです。
AIを安全に、そして安心して使いこなすために、最後に2つの重要なポイントをQ&A形式で解説します。
Q1. 「加工不良」の相談も機密情報では? どこまで話していいの?
A1. おっしゃる通り、情報の「扱い方」によっては機密情報になります。解決策は「抽象化」です。
AIへの質問は、社外のコンサルタントに相談する時と同じレベルの「個人情報・機密情報をぼかした表現」にすれば安全です。
- NGな相談(具体的すぎる): 「株式会社A社向けの製品『X-123』の、工程Zで発生した穴径の寸法不良について…」
- OKな相談(抽象化されている): 「ある顧客向けの精密部品で、マシニング加工の工程で発生した穴径の寸法不良について…」
このように、固有名詞(顧客名、製品名、個人名など)を一般的な名詞に置き換えるだけで、AIは文脈を理解して的確なアドバイスをくれます。
Q2. とは言っても、やはり不安です。どうやって慣れればいい?
A2. はい、3つのステップで少しずつ「安全な場所」から慣れていくことをお勧めします。
いきなり仕事の相談は誰でも不安です。自転車の練習と同じで、まずは補助輪をつけて簡単なことから始めましょう。
- ステップ1:【超入門】AIと「雑談」してみる まずは仕事と全く関係ない、プライベートな質問でAIに話しかける行為そのものに慣れてみましょう。 (例:「今度の休みに、近場の石川県でおすすめの日帰り温泉は?」)
- ステップ2:【練習編】「公開情報」を要約・翻訳させてみる 次に、少しだけ仕事に近づけます。入力するのは、インターネットで誰でも見られる「公開情報」だけです。これなら安全です。 (例:競合他社のウェブサイトのURLを貼り付け、「この会社の強みを3つ要約して」と頼む)
- ステップ3:【実践編】「抽象化した業務」を相談してみる AIとの対話に慣れたら、いよいよ業務相談です。ここで「抽象化」のテクニックを使いましょう。 (例:「部下のモチベーション管理に悩んでいます。何か良い方法は?」)
さあ、今日から「最初の一歩」を

もう、AIに話しかけるイメージは湧きましたか?今日からできる、具体的な最初の一歩はこちらです。
- アプリを入れましょう: お手持ちのスマートフォンで「ChatGPT」または「Google Gemini」と検索し、公式アプリをインストールします(無料です)。
- 最初の「雑談」をしてみましょう: 難しく考えず、まずはこう聞いてみてください。 「こんにちは。あなたは誰ですか?あなたと話すと、どんな良いことがありますか?」
AIは、あなたの仕事を奪うものではなく、あなたの右腕となり、考える時間や、人にしかできない仕事に集中する時間を生み出してくれる強力なパートナーです。
この記事をみた後で10分だけ、この新しいアシスタントに話しかけてみませんか?きっと、会社の未来を変えるヒントが見つかるはずです。
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